インタビュー

 

東北大学大学院 情報科学研究科 堀田 龍也 教授 にインタビュー

東北大学大学院 情報科学研究科 堀田 龍也 教授

東北大学大学院 情報科学研究科
堀田 龍也 教授

みんなで取り組む ネットモラル

インターネットを子どもたちに安全に利用させるにはどうしたらよいか、情報モラル教育はどう進めるのか、家庭や学校はどう対応すべきかなどについて、国、学校、地域などいろいろなところで話し合いが持たれています。先導的に情報モラル教育を研究されてきた東北大学大学院 情報科学研究科 堀田龍也教授にお伺いしました。

始めよう ネットモラル教育

デジタル機器に囲まれて育った子どもたちは、操作方法を大人に教わらなくても、デジタル機器を直観的に使いこなしています。そんな子どもたちを見て「子どもに教えることは何もない」「子どもの方が私たち大人よりよっぽど詳しい」などと思ってしまう大人が多いのが現状です。しかしそれは、デジタル機器の操作スキルだけを見ているということです。

ネット社会は、特別な社会ではなく、現実の社会の延長上にあります。きまりは守らねばなりませんし、社会を混乱させたり、他の人を困らせたりするような行為は許されません。さらにネット社会は、家庭や学校のように守られた空間でないだけに、自分で自分を守る力も必要となります。子どもが悪意を持った人と出合ってしまう危険性は十分にあります。そのとき子どもたちは、望ましい判断ができるでしょうか。

このようなネットの脅威から子どもたちを守るためには、操作スキルよりもむしろ、ネット社会の危険性に関する知識やルール、マナーを教えるべきだと思います。ネット社会は現実社会と同じであり、自分の行動に責任が伴うことなどを理解させることが大切です。子どもたちを守るためには、ネット社会の難しさを意識しつつ、できることから取り組んでいく必要があります。

安全に利用させるために

子どもたちがインターネットを安全に利用できるよう、保護者の方には次の三つのことに取り組んでいただきたいと思います。

一つ目は、子どもたちの想像力を育てることです。想像力が育つと、自分のことだけでなく相手のことや家族、周囲への影響も考えることができるようになります。感情や勢いに任せた行動ではなく、自分なりに考えたうえでの判断ができるようになるのです。しかし、子どもたちの想像力を育てることは容易ではなく、時間がかかります。本を読ませたり、大人と一緒にさまざまな経験をさせ、考えさせる場面を多くしたりして、想像する範囲を成長とともに広げていく必要があります。さらに、私たち大人の行動そのものが、後に子どもたちが想像したり判断したりするときの指針になるということを忘れないようにしましょう。

二つ目は安全対策です。既に子どもが新しいデジタル機器を使い始めている場合、緊急に対策を施す必要があります。手っ取り早く子どもを危険から遠ざけ、安全に利用させるには、フィルタリングや機器の機能を制限したりすることが有効です。周囲の詳しい人に尋ねたりして、対策を施していただきたいのです。今後、保護者の方々を支援する取り組みとして、各地域で「子どもにデジタル機器を安全に使わせるためのコミュニティ」が生まれることが期待されます。

三つめは、家庭のルールを子どもと一緒に作ることです。既にデジタル機器を持たせてしまっている場合、今更ルールを作っても、「子どもが守ってくれるだろうか」と思われるかもしれません。しかし、それでも保護者の願いを明文化することに意味があるのです。子ども自身のことを心配しているというメッセージでもあるし、ルール自体が子どもたちに必要な制限であるということを伝えることができるからです。見守られていると意識すれば、ある程度のブレーキにはなります。たとえ守れなかったとしても、ルールを守って安全に使ってもらいたいという保護者の願いを子どもたちには知って欲しいと思います。

みんなで取り組むネットモラル

子どもたちの情報モラル教育は、喫緊の課題です。学校では計画的に機会を見つけて取り組んでいます。しかし、子どもたちがデジタル機器を利用している時間は主に学校外の時間です。きめ細やかな指導を行うのは家庭をおいて他にはありません。使う時間や目的を話し合ったり、情報モラルに関係した事件や事故を話題に取り上げて、家庭で話し合ったりするなど、できることから始めてほしいのです。

身近なところでは、歩きスマホや自転車スマホなどの「ながらスマホ」(他の行為をしながらスマホを操作する)の危険性についてもしっかりと指導していただきたいと思います。また、ネットやスマホへの依存も心配されます。

学校とともに、家庭での情報モラル教育の充実が大切な課題となっている時代です。

環太平洋大学 次世代教育学部 平松 茂 特任教授 にインタビュー

環太平洋大学 次世代教育学部 平松 茂 特任教授

環太平洋大学 次世代教育学部
平松 茂 特任教授

いっしょに考えよう!ネットモラル

 著作権法は、時代に合わせて改正されます。子どもに著作権の知識を教えるとともに、きまりの持つ意味や守ることの大切さ、著作者へ感謝する気持ちを持たせることが必要です。著作権と道徳教育について環太平洋大学 平松 茂 特任教授が語ってくださいました。

著作権と情報社会

著作権法は、文章、図面、音楽などの著作物を創り出した人の権利を守るために、情報社会になる前から制定されています。その目的は、「公正な利用」「著作者等の権利の保護」「文化の発展に寄与」にあります。

他人の著作物を利用する人が、決められた範囲を超えて使ってしまうと、著作者の権利は守ることができません。こうした事態が繰り返されると、著作者が作品を秘蔵してしまうかもしれません。また、創作意欲を失ってしまうかもしれません。そうなれば私たちは、多様な作品を読んだり、聴いたりすることができなくなります。

私たちは多くの人とつき合い、理解し合い、支え合って社会を構成しています。そこには、人間関係を円滑に進めるための約束ごとやきまりがあって、人々がそうしたきまりを守ることで社会が成り立っています。私たちが著作物を利用するときも、き
まりを守り、創りだした人の気持ちや思いを尊重することで、よりよい情報社会が構築できるのです。

学ぶことは真似ること

私たちは真似をすることから学び始めます。例えば、有名な画家の絵画を模写してその技法を学び、流行のダンスがあればそれを真似ることで、踊りの技術を向上させます。幼いころから、常に「お手本」を探して、「お手本」に自分を近づけようとしているのだと思います。また、真似をしているうちに独創的な作品を作りあげるように成長していくのです。ですから、真似をすることは悪いことではありません。問題は、正当な対価を支払わずに著作物を勝手に利用したり、他人の著作物を自分の作品として発表したりすることです。

この問題で、子どもたちにかかわることと言えば、感想文やレポート、自由研究などがあります。インターネットからコピペ(コピー・アンド・ペースト:コピーして貼り付けること)したものを自分が考えた作品として提出してしまうという問題があちこちで起きています。今年、京都大学の入学式で「コピペはしないように」と学長がクギを刺したのは記憶に新しいところです。コピペのレポートを提出すると厳しい処分を下す大学も増えてきました。罰則を厳しくすることでしかこの問題は解決しないのでしょうか。

子ども達だけでなく大人であっても、難しい課題が出されたとき、自分でやらなければいけないと思いながら、何とかその場をしのぎたいという思いに駆られます。しかし、他人の文章や写真をコピーして仕事を済ませたとしても、一時の安堵感と引き換えに、自分の弱さを情けなく思い、後ろめたい気持ちにとらわれるでしょう。後ろめたい気持ちがあるうちは、まだよいかもれません。本当に怖いのは、後ろめたい気持ちさえ無くしてしまうことです。

著作権と道徳教育

きまりがあることや、違反した場合に罰則があることは十分理解している。しかし、一方で、別の何かが私たちの心の中に潜んでいるような気がします。

人間には、「見つからなければいい」「一度くらいならいいかも」「叱られることはないだろう」と考えてしまう心の弱さがあるのでしょう。インターネット上で、しかも匿名ともなれば、人間の弱さが出やすくなるのは言うまでもありません。また、インターネットという広い世界が現れたことで、私たちは自分自身を見失っているのかもしれません。現実の自分とインターネット上の自分を使い分けているつもりでも、一人の人間であることは間違いなく、いずれが行ったことも、責任をとるのは自分しかいないのです。

著作権法は法律です。違反者が増えれば、当然罰則は厳しくなります。しかし、罰則が増え続けていく社会は、同時に人間の道徳性が失われている証でもあるのです。

子どもたちがこれから先、他の人の著作物を利用するとき、著作者に敬意を払い、感謝をする心を持っていてほしいと思います。そのために、著作権の知識も必要です。大人や保護者は見守ってやる必要があります。しかしベースになるのは、道徳性を育てることにあります。心の教育が必要なのです。

善悪を判断できる力と弱さに負けない心を育てることが求められています。

岐阜県揖斐川町立揖斐小学校 横山 隆光 校長 にインタビュー

岐阜県揖斐川町立揖斐小学校 横山 隆光 校長

岐阜県揖斐川町立揖斐小学校
横山 隆光 校長

子どもと学ぶ ネットモラル

子どものスマートフォンの所有率は増加を続け、それに伴いトラブルや問題事案も多く報告されるようになりました。私達大人は、子ども達に何をどう教えたらよいのでしょうか。今回は、先進的に情報モラル教育に取り組まれている岐阜県揖斐川町立揖斐小学校の横山隆光校長にお話を伺いました。

学校で進める情報モラル教育

 学校では、道徳や特別活動をはじめとして、いろいろな授業の中で折に触れ、情報モラル教育を行っています。道徳では、学級での話し合いを通して、いろいろな考えがあることを知り、思いやりをもって接することの大切さや公徳心などを学びます。図工・美術では、絵画や写真を勉強するとき、著作者の作品への思いを考えて作品を大切に扱うこと、国語では、自分のレポートや発表資料に他の人の文章や資料を利用するときの「引用」の決まりや方法、保健体育では生活習慣やネット依存に関わることなどを学んでいます。特別活動では、情報モラルに関する動画教材を視聴して、問題点や対処法を話し合います。このようにして正しい知識を得て、危険を回避したり、安全に利用したりする力を身に付けています。

子どもと学ぶネットモラル

情報技術は日々進化し、情報機器を通じたサービスの内容は目まぐるしく変化しています。到底学校の指導だけでは追いつけないのが実情です。そこで求められるのは家庭や地域の協力です。

学校とPTAとが連携して情報モラルの研修をしたり、講演を企画したりする例もよく聞かれるようになってきました。国は「お子様が安全に安心してインターネットを利用するために保護者ができること」などの資料を作って、インターネットで公開しています。研修会に参加したり資料を見たりして、保護者の方も知恵を磨いて子どもに接する必要があります。もちろん心の面からの指導も欠かせません。子どもが小さいうちから、相手の気持ちを考えることの大切さを教えていただきたいと思います。その場の雰囲気や誘惑に負けて悪口を言ったり、相手の嫌がることをしたりしないよう自制することの大切さを、機会を捉えて繰り返し指導したいものです。情報モラル教育の根底となる考え方は、日常生活の中にあり、特別なことではありません。日々の生活の中で、育まれるのです。

また、いつでも親や近くの大人に相談できる雰囲気や環境をつくっておくことも大切です。家庭内のコミュニケーションを大切にして、できるだけ毎日、学校であったことや興味関心のあることを話し合う時間を確保していただきたいと思います。信頼できる環境があれば、トラブルに出遭った時も大きな問題になる前に対処できるからです。

スマートフォンや携帯ゲーム機、携帯音楽プレーヤーなど、子ども達が使用する様々な機器がインターネットにつながるようになった今、一番求められているのは、家庭の力だということが分かります。

家庭も地域も子どもと一緒に

期待される取り組みの一つとして、児童会や生徒会が自分たちでインターネットを使う時のルールや約束を決めた学校があります。簡単に紹介します。

初めに、児童会や生徒会が中心となって、自分達と情報機器との関わり合いについて実態調査を行いました。集計を進めていくうちに、子ども達は「インターネットの利用時間を減らしたいと思っているのは自分だけではなかった」「SNSに時間を使うのがもったいないと思っている人は予想以上に多かった」などと気づき、みんなで話し合って解決策を考えようと動き始めました。その結果、子ども達が自分たちのために考えたインターネットを使うときのルールや約束が、例えば「個人情報、うわさ、誹謗中傷を書かない」「フィルタリングをかける」「利用時間決める」などと作られたのです。大人が決めて子どもに押し付けるルールや約束ではないだけに、効果は持続します。

さらに、これらの取り組みを学校内にとどめるのではなく、PTAや学区へと広めていきました。子ども達自身でルールや約束を作ったとしてもネット依存傾向の強い子どもは、こうした約束を守れないことがあります。そんなときは、家庭や地域の協力が必要となります。そこで、生徒会が学校でのインターネットへの取り組みを説明してPTAへ協力をお願いしました。それを受けてPTAは、取り組みを支援する申し合わせ事項をつくったのです。

いずれも、子どもの自己決定や活動をPTAや地域が支えるという構図です。子どもの自治力、自浄力が高まり、家庭や地域の理解も深まります。このようにして子どもの取り組みを家庭や地域で支えることが、子ども達を守ることにつながるのです。

望ましい情報社会の実現に向け、家庭も地域も子どもと一緒に活動することへの期待が高まります

富山大学人間発達科学部 高橋純 准教授 にインタビュー

富山大学人間発達科学部 高橋純 准教授

富山大学人間発達科学部
高橋純 准教授

みんなで学ぼう!ネットモラル

学校での情報モラル教育が浸透してきた今、「家庭での情報モラル教育」の重要性が高まっています。なぜ家庭での情報モラル教育が重要なのでしょうか。警察庁が発表したデータや文科省が行っている「全国学力・学習状況調査」のデータをもとに富山大学人間発達科学部の高橋純・准教授が語ってくださいました。

家庭で求められる情報モラル教育

警察庁が発表した興味深い調査結果があります。「コミュニティサイトに起因する児童被害の事犯に係る調査結果(平成24年下半期)」によると、被害に遭った児童の約55%が、携帯電話やインターネットの利用に関して、保護者から何の注意も受けていませんでした。注意は受けていたという児童でも、一般的な注意にとどまっていたのが約27%。両者を合わせると、被害者となった児童の4分の3以上が、保護者からちゃんとした指導を受けていなかったのです。家庭での情報モラル教育の不備が、子どもの危険に直結することがよく分かります。

ケータイやネットの利用状況と「学力」の関係

文部科学省が行っている「全国学力・学習状況調査」でも、興味深いデータが出ています。これは全国の小6と中3の学力を一斉に調査するテストで、マスコミからもよく報じられています。この調査では、学力と生活習慣との関連性も分析していることをご存知でしょうか?

たとえば、「携帯電話で通話やメールをしていますか」という質問では、「携帯電話を持っていない」と答えた生徒の点数が全教科ともに最も高くなりました。「ほぼ毎日している」と答えた生徒と比べると、4ポイント前後の差がついたのです。また「携帯電話の使い方について、家の人と約束したことを守っていますか?」という質問では、「守っていない、または約束はない」と答えた生徒よりも、「きちんと守っている」と答えた生徒の方が全教科で点数が高くなりました。

「依存」を防ぐためのルール作り

これら2つのデータから、子どもたちを危険から守るとともに、学力の低下を防ぐには、学校だけでなく家庭の役割が重要であることが分ります。学校と家庭が車の両輪となって、子どもたちに情報モラルを育んでいく必要があるのです。

では、家庭でどのような指導を行えばいいのでしょうか。最も大切なことは「依存させない」ことです。ケータイやネットを長時間利用すればするほど悪意を持っている人に出遭う機会は増え、危険性も高まります。また家にいるときも友達に気を使ってチャットやメールのやりとりに追われてしまうと、自分の時間や家庭でのコミュニケーションも失われてしまいます。精神的にも参ってしまうでしょう。

「依存」こそが、多くの問題の根源。以前問題になった「メール」も、今問題になっている「無料通話アプリ」も、依存するから問題が起きるのです。逆に言えば、依存せずに適切に携帯電話やネットを利用する姿勢さえあれば、今後どんな新しいサービスやアプリが出てきたとしても、問題は起こりにくいと思います。
「依存」を防ぐには、使用する目的を家族で話し合い、使用できる時間や時間帯を決める、ケータイの充電はリビングに限る、など家庭でのルールを子どもと一緒に作ることが大切です。またルールは成長に合わせて変えてあげることも重要です。

 さらに、フィルタリングやそれぞれの機器の機能制限を設定することで、有害サイトへのアクセスや使い過ぎなど、ある程度防止することができます。

保護者も正しい知識を

 情報モラルの欠如が原因となって起きる問題は、マスコミが報じるような大きな事件に巻き込まれることだけではありません。もっと身近な危険がたくさん潜んでいます。たとえば、歩きスマホをしていて交通事故にあってしまったり、メールやSNSで友達との人間関係が壊れてしまったりすることがあり、誰もがトラブルに遭う危険性を持っています。「うちの子に限っては大丈夫。マスコミが報じているような大きな事件には巻き込まれるはずがない」と、決めつけて油断しないでください。

学校と家庭が車の両輪となって子どもに情報モラル教育を行いましょう。そのためには、保護者が情報機器や情報社会の正しい知識を豊富に持つことが大事です。そうすることで、子どもの情報モラルも向上し、子どもを健やかに育むことに繋がるのです。