環太平洋大学 次世代教育学部 平松 茂 特任教授 にインタビュー

環太平洋大学 次世代教育学部 平松 茂 特任教授

環太平洋大学 次世代教育学部
平松 茂 特任教授

いっしょに考えよう!ネットモラル

 著作権法は、時代に合わせて改正されます。子どもに著作権の知識を教えるとともに、きまりの持つ意味や守ることの大切さ、著作者へ感謝する気持ちを持たせることが必要です。著作権と道徳教育について環太平洋大学 平松 茂 特任教授が語ってくださいました。

著作権と情報社会

著作権法は、文章、図面、音楽などの著作物を創り出した人の権利を守るために、情報社会になる前から制定されています。その目的は、「公正な利用」「著作者等の権利の保護」「文化の発展に寄与」にあります。

他人の著作物を利用する人が、決められた範囲を超えて使ってしまうと、著作者の権利は守ることができません。こうした事態が繰り返されると、著作者が作品を秘蔵してしまうかもしれません。また、創作意欲を失ってしまうかもしれません。そうなれば私たちは、多様な作品を読んだり、聴いたりすることができなくなります。

私たちは多くの人とつき合い、理解し合い、支え合って社会を構成しています。そこには、人間関係を円滑に進めるための約束ごとやきまりがあって、人々がそうしたきまりを守ることで社会が成り立っています。私たちが著作物を利用するときも、き
まりを守り、創りだした人の気持ちや思いを尊重することで、よりよい情報社会が構築できるのです。

学ぶことは真似ること

私たちは真似をすることから学び始めます。例えば、有名な画家の絵画を模写してその技法を学び、流行のダンスがあればそれを真似ることで、踊りの技術を向上させます。幼いころから、常に「お手本」を探して、「お手本」に自分を近づけようとしているのだと思います。また、真似をしているうちに独創的な作品を作りあげるように成長していくのです。ですから、真似をすることは悪いことではありません。問題は、正当な対価を支払わずに著作物を勝手に利用したり、他人の著作物を自分の作品として発表したりすることです。

この問題で、子どもたちにかかわることと言えば、感想文やレポート、自由研究などがあります。インターネットからコピペ(コピー・アンド・ペースト:コピーして貼り付けること)したものを自分が考えた作品として提出してしまうという問題があちこちで起きています。今年、京都大学の入学式で「コピペはしないように」と学長がクギを刺したのは記憶に新しいところです。コピペのレポートを提出すると厳しい処分を下す大学も増えてきました。罰則を厳しくすることでしかこの問題は解決しないのでしょうか。

子ども達だけでなく大人であっても、難しい課題が出されたとき、自分でやらなければいけないと思いながら、何とかその場をしのぎたいという思いに駆られます。しかし、他人の文章や写真をコピーして仕事を済ませたとしても、一時の安堵感と引き換えに、自分の弱さを情けなく思い、後ろめたい気持ちにとらわれるでしょう。後ろめたい気持ちがあるうちは、まだよいかもれません。本当に怖いのは、後ろめたい気持ちさえ無くしてしまうことです。

著作権と道徳教育

きまりがあることや、違反した場合に罰則があることは十分理解している。しかし、一方で、別の何かが私たちの心の中に潜んでいるような気がします。

人間には、「見つからなければいい」「一度くらいならいいかも」「叱られることはないだろう」と考えてしまう心の弱さがあるのでしょう。インターネット上で、しかも匿名ともなれば、人間の弱さが出やすくなるのは言うまでもありません。また、インターネットという広い世界が現れたことで、私たちは自分自身を見失っているのかもしれません。現実の自分とインターネット上の自分を使い分けているつもりでも、一人の人間であることは間違いなく、いずれが行ったことも、責任をとるのは自分しかいないのです。

著作権法は法律です。違反者が増えれば、当然罰則は厳しくなります。しかし、罰則が増え続けていく社会は、同時に人間の道徳性が失われている証でもあるのです。

子どもたちがこれから先、他の人の著作物を利用するとき、著作者に敬意を払い、感謝をする心を持っていてほしいと思います。そのために、著作権の知識も必要です。大人や保護者は見守ってやる必要があります。しかしベースになるのは、道徳性を育てることにあります。心の教育が必要なのです。

善悪を判断できる力と弱さに負けない心を育てることが求められています。